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広島高等裁判所 平成5年(ネ)406号 判決

控訴人

橋本徳義

被控訴人

新宮信夫

井町種吉

小川孝弌

永野孝昭

山田曙美

宮田隆

深町咲江

右七名訴訟代理人弁護士

坂元洋太郎

右訴訟復代理人弁護士

下中奈美

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人らが、原判決の別紙図面一のイ、ロ、ハ、イの各点を順次直線で囲んだ範囲内の土地部分及び同図面一のニ、チ、ヌ、ル、ニの各点を順次直線で囲んだ範囲内の土地部分並びに本判決の別紙図面のP、Q、R、Pの各点を順次直線で囲んだ範囲内の土地部分を通路として通行することを妨害してはならない。

2  控訴人は、被控訴人らに対し、前項記載の各土地部分に通行の妨害となる工作物を設置してはならない。

3  被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決中、控訴人の敗訴部分を取り消す。

二  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

(原審における被控訴人らの請求のうち、原判決の別紙図面一のホ、へ、リ、ト、鋲①、ヌ、ル、ホの各点を順次直線で囲んだ範囲内の土地部分の通行妨害禁止及び工作物の設置禁止請求並びに同図面一のロ、ハ、ヲ、ニ、ル、ロの各点を順次直線で囲んだ範囲内の土地に設置された便槽の撤去請求を棄却された部分については、被控訴人らからの控訴がないので、本件控訴の判断対象には含まれない。)

第二  事案の概要

次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決が「第二 事案の概要」と題する部分(ただし、原判決五枚目裏末行から同六枚目表四行目までを除く。)に記載するとおりであるから、これを引用する。

一  原判決二枚目裏六行目の「に表示」を削除し、同七行目の「所在は」から同八行目の「旧所在である」までを「所在地の表示については、旧所在でこれを表示するのが簡明であるので、以下においては、土地の所在地を表示する場合はいずれも旧所在による」と改め、同九行目の「関係土地については」の後に「、適宜、」を加える。

二  同三枚目表五行目の「右5の土地」から同七行目の「所有であった。」までを「5(一)の土地は野上登美の所有、5(二)の土地は西村巖の所有、5(三)の土地は野上登美及び西村しげみの共有であった。」と改める。

三  同三枚目表八行目から同裏八行目までを次のとおり改める。

3 被控訴人小川は、昭和五〇年一二月に西村ツキ子から二二六五番二及び二二六五番六の土地を、被控訴人永野は、同年同月に西村ツキ子から二二六五番四の土地を、被控訴人宮田は、同年同月に西村ツキ子から二二六五番八の土地をそれぞれ買い受け、また、被控訴人山田は、昭和五四年九月に野上登美から二二六五番一二の土地を、同年同月に野上登美及び西村しげみから二二六二番五の共有持分全部(野上登美持分三分の二、西村しげみ持分三分の一)を、同年一一月に西村巖から二二六二番四の土地をそれぞれ買い受けた(ただし、登記簿上は、二二六五番一二の土地及び二二六二番五の土地については山田節子が買い受け、昭和五五年三月に同人から真正な登記名義の回復を原因として被控訴人山田に所有権が移転したこととされている。)が、その際、右被控訴人らは、原判決の別紙物件目録一記載の各土地、同目録三の2記載の土地、宇部市大字上宇部字西宗房二二六四番一の土地の各所有者であった西村ツキ子及び同目録三の1記載の土地の所有者であった野上登美との間において、同人ら所有の右各土地を承役地、右被控訴人らの買い受けた各土地を要役地とし、右承役地に右要役地のための通行地役権を設定する旨の合意をした。

ただし、承役地である二二六三番四の土地及び二二六三番五の土地は、昭和五五年五月一六日に二二六三番一の土地から分筆されたものであり、右通行地役権設定の合意がなされた当時の承役地の表示は二二六三番一の土地とされている(甲一の承諾書及び甲四添付の覚書参照)。

4 原判決の別紙物件目録二記載の土地のうち、二二六五番一三及び二二六五番一四の土地は、その後、西村ツキ子から山口トヨタ興産株式会社に、二二六五番七の土地は、同じく西村ツキ子から有限会社大地にそれぞれ売却されたが、西村ツキ子及び野上登美は、同人ら所有(あるいは共有)の前記各承役地を、西村ツキ子が山口トヨタ興産株式会社あるいは有限会社大地に売却した右二二六五番一三の土地、二二六五番一四の土地、二二六五番七の土地のための通路として利用させることを承諾していたものであり、また、右各社が西村ツキ子から買い受けた土地を転売した場合には、転売を受けた土地所有者のためにも前記各承役地を通路として利用させることを承諾していた。

5 被控訴人新宮は、昭和五〇年二月に有限会社大地(ただし登記簿上は西村ツキ子)から二二六五番七の土地を、被控訴人深町は昭和五五年四月(登記簿上は同年五月)に山口トヨタ興産株式会社から二二六五番一三の土地を、被控訴人井町は、同年一月(登記簿上は同年六月)に同社から二二六五番一四の土地をそれぞれ買い受けたが、西村ツキ子及び野上登美は、前記4のとおり、二二六二番三の土地、二二六三番四の土地及び二二六三番五の土地(分筆前の二二六三番一の一部)、二二六四番一の土地の一部(ただし、甲一の承諾書及び甲四添付の覚書には表示されていない。)、二二六五番一の土地、二二六五番九の土地を承役地とする前記の通行地役権を、右被控訴人らが買い受けた右各土地のためにも設定することをあらかじめ承諾していた。

6 ところで、前記合意によって、通行地役権が設定された承役地の範囲は、二二六五番一の土地、二二六五番九の土地、二二六二番三の土地については右各土地の全体であり、二二六三番四の土地及び二二六三番五の土地については、その分筆前の土地である二二六三番一の土地の幅員四メートルの部分であり、二二六四番一の土地についてはその一部である原判決の別紙図面一の鋲①、ト、リ、鋲①の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地部分(以下「二二六四番一の係争部分」という。)であるところ、原判決の別紙図面一のイ、ロ、ハ、イの各点を順次直線で囲んだ範囲内の土地部分及び同図面一のニ、ル、ホ、へ、リ、ト、鋲①、チ、ニの各点を順次直線で囲んだ範囲内の土地部分(以下、前者を「第一係争部分」、後者を「第二係争部分」といい、両者を併せて「本件係争地」という。)は、右通行地役権が設定された承役地の一部であるから、被控訴人らは、控訴人に対し、本件係争地について、通行地役権に基づく妨害排除請求権を有する。

なお、前記合意に基づいて作成された承諾書(甲一)や覚書(甲四添付)には二二六四番一の土地が承役地として表示されていないが、これは、単なる地番の記載漏れであって、二二六四番一の係争部分についても通行地役権は設定されていたものである。

四  同三枚目裏九行目の「4」を「7」と改め、同行の「原告らが」の前に「本件係争地の通行については、」を加え、同九行目の「本件各土地」を「被控訴人らの各所有地」と、同一〇行目の「を前提としており」を「が前提とされており」と、同一一行目の「本件土地」を「被控訴人らの各所有地」と、同末行の「されていたが、」から同四枚目表一行目の終わりまでを「されていたから、自動車による通行も、通行地役権の内容に含まれていた。」とそれぞれ改める。

五  同四枚目表二行目の冒頭に「8」を加え、同三行目の「右のような利用状況等からして」を「被控訴人らが各所有地を買い受けた後の右7に記載のような本件係争地の利用状況等からして、本件係争地については」と改め、同四行目の次に行を改めて「なお、二二六三番四の土地及び二二六三番五の土地の各一部である原判決の別紙図面一のホ、へ、リ、鋲①、チ、ヌ、ル、ホの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地部分(以下「二二六三番四の係争部分」という。)や同図面のニ、チ、ヌ、ル、ニの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地部分(以下「二二六三番五の北側係争部分」という。)は、その後、人や自動車の通行のためのアスファルト舗装がされているところ、二二六四番一の係争部分についても、右と同様のアスファルト舗装がされ、人や自動車の通行が認められていたから、右土地部分についても、黙示の通行地役権の設定があったというべきである。」を加え、同五行目から一一行目までを次のとおり改める。

9 控訴人は、野上登美から二二六三番四の土地及び二二六四番一の土地を買い受けたが、その際、同人から、本件係争地には被控訴人らの各所有地のための通行地役権が存在することを明示され、これを承諾のうえ、右各土地の所有権を取得した。したがって、控訴人は、通行地役権設定者としての地位を承継した。

また、仮に、控訴人が、右売買の際に、野上登美から右各土地に通行地役権が設定されている旨の説明を受けなかったとしても、本件係争地については控訴人が右各土地を買い受ける前からアスファルト舗装(簡易舗装)がなされており、被控訴人らが本件係争地に通行地役権を有することは控訴人においても知っていたものというべきであるところ、控訴人は、被控訴人らが本件係争地を通行することができなくなれば、日常生活に重大な支障が生ずることを認識しながら、二二六三番四の土地及び二二六四番一の土地を買い受けたものであるから、被控訴人らが本件係争地について通行地役権の設定登記を有しないことを主張する正当な利益を有しない。

なお、控訴人は、平成二年九月一一日、二二六三番四の土地の北側に位置する西村しげみ所有(前所有者は野上登美)の二二六二番三の土地についても、被控訴人らの通行を従来どおり認めることを了承のうえ、同人から贈与を受けている。

六  同四枚目表一二行目の「6」を「10」と改め、同行の「平成二年」から同裏一行目の「ところ、」までを削除する。

七  同四枚目裏四行目の「争いがない事実」を「控訴人が本件係争地内にブロック塀を築こうとしたこと、本件係争地に通行地役権が存在することを争っていることは、当事者間に争いがない。」と改め、同四行目の次に行を改めて次のとおり加える。

11 当審における被控訴人らの主張

(一)  被控訴人らが自動車で通行する際に、被控訴人永野の所有地である二二六三番六の土地の一部を通行していたとの控訴人の主張は争う。

(二)  本件係争地付近の地形図(甲二)、山口トヨタ興産株式会社と被控訴人井町との間の不動産売買契約証書(甲四)、土地所在図(甲五)、山口トヨタ興産株式会社と被控訴人深町との間の不動産契約証書(甲六)添付の分間図によれば、二二六三番四の土地に相当する部分の土地は通路となっており、かつ、右土地の一部である二二六三番四の係争部分付近は、南側方向からみた場合、通路が左側にカーブしている。

したがって、少なくとも、二二六三番四の土地の前々所有者であった西村ツキ子及び前所有者であった野上登美は、右土地上の建物の敷地の一部である二二六三番四の係争部分についても、自動車の右、左折に最小限必要な範囲の通行はこれを認めていたものであり、控訴人も、その実体を是認して二二六三番四の土地の所有権を取得したものである。

(三)  仮に、被控訴人らが二二六三番四の係争部分に通行地役権を有しないとしても、控訴人において、被控訴人らが、右土地部分を通行する際、車両の車輪の一部がかかることを拒否するのは、控訴人への不利益がほとんどないにもかかわらず、被控訴人らの生活に必要なプロパンガスその他の物資を搬入する業者、清掃車などの出入りを事実上不可能とし、被控訴人らに生活上の多大な損害を被らせるもので、権利の濫用である。

八  同五枚目表四、五行目の「同日、二二六三番五の土地も分筆されているところ」を「同日に分筆された二二六三番五の土地については、その二か月後に地目が公衆用道路に変更されているにもかかわらず、二二六三番四の土地についてはこうした処理はなされず、その後、平成二年九月に、野上登美から控訴人に右土地が売却された際にも、地目が宅地に変更されたうえで所有権移転登記手続が経由されている。つまり」と改め、同一一、一二行目の「の義務者である」を「設定者としての」とそれぞれ改め、同末行の「原告永野が」の前に「控訴人は、」を加える。

九  同五枚目裏八行目の「原告ら」の前に「本件係争地について、通路として使用することの妨害及び工作物の設置の禁止を求める」を加え、同一〇行目の「築いたものであり」を「築いて二二六三番五の土地を通路として通行することが不便となる状態を作出したほか、現在、自らは、二二六五番四の土地から二二六三番六に移り住んでおり」と、同一二行目の「本件申立は権利の濫用になる」を「本件請求は訴えの利益のないものあるいは権利の濫用である」とそれぞれ改める。

一〇  同六枚目表四行目の後に行を改めて次のとおり加える。

5 控訴人の当審における主張

(一)  被控訴人らは、被控訴人永野が二二六三番六の土地上にブロック塀を構築する以前は、自動車で通行する際には二二六三番六の土地の一部を通行していた。

したがって、仮に、被控訴人らが黙示の通行地役権を有するとしても、通行地役権の存在を黙示に認めたのは被控訴人永野というべきであるから、右通行地役権は、同被控訴人の所有地である二二六三番六の土地上の一部に設定されたと考えるべきである。

(二)  仮に、被控訴人らが控訴人所有の二二六三番四の係争部分を通行していたことがあるとしても、それは単に控訴人の所有権を事実上侵害していたに過ぎず、右土地部分が控訴人所有建物の屋根の下であることからしても、右通行によって黙示の通行地役権が発生することはあり得ない。

一一  同六枚目表六、七行目を次のとおり改める。

本件の争点は、次のとおりである。

1  被控訴人らが本件係争地について明示もしくは黙示の通行地役権を有するか否か。

また、被控訴人らは、通行地役権の設定登記なくして通行地役権を控訴人に対抗することができるか。

2  被控訴人永野が本件係争地について通行地役権を主張することが権利の濫用となるか否か。

3  仮に被控訴人らが通行地役権を有しないとした場合に、控訴人が本件係争地の通行を拒否することが権利の濫用となるか否か。

第三  争点に対する判断

一  本件の争点を判断する前提となる事実関係についての認定は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決の「第三 判断」の「一」(原判決六枚目表九行目から同一一枚目裏一一行目まで)に記載するとおりであるから、これを引用する。

1  原判決六枚目表九行目の「三」を「四」と、同一二行目の「井町種吉)」を「井町種吉、当審検証)並びに弁論の全趣旨」とそれぞれ改める。

2  同六枚目裏末行の「分筆され、」を「分筆されたが、右二二六二番三の土地については、その後、」と改める。

3  同七枚目表一行目の「持分」を「野上登美持分三分の二のうち」と、同四、五行目の「被告に移転し、同目録三の2の土地は」を「西村しげみから同土地の所有権が控訴人に移転された。他方、二二六三番四の土地(同目録三の2の土地)は」と、同七、八行目の「平成二年九月一一日」を「平成二年四月ころ(登記簿上は同年九月一一日)」とそれぞれ改め、同八行目の「移転している」の後に「(同日に登記)」を加え、同末行の「なっている。」を「なっており、同年一二月一〇日売買を原因として、同月一一日付で西村ツキ子から被控訴人新宮への所有権移転登記手続が経由されている。」と改める。

4  同七枚目裏一行目の「売買契約書」を「不動産売買契約証書」と、同三行目の「あり、」を「ある。」とそれぞれ改め、同五行目の「あるが」の後に「(ただし、登記簿上は、同年一二月八日売買を原因とする同日付の所有権移転登記手続が経由されている。)」を加え、同六行目の「売買契約書」を「不動産売買契約証書」と、同八、九行目の「あり、」を「ある。」とそれぞれ改め、同一〇行目の「甲四)」の後に「を」を、同一二行目の「甲六)」の後に「を」を、同一二、一三行目の「買い受けたが」の後に「(ただし、登記簿上、被控訴人井町については、昭和五五年六月一七日売買を原因とする同月一八日付の、被控訴人深町については、昭和五五年五月三〇日売買を原因とする同年六月二日付の、各所有権移転登記手続が経由されている。)」を、同末行の「図面三」の後に「(ただし、甲六(不動産契約証書)に添付された図面は、原判決の別紙図面三のほぼ左半分で、「約63坪」の表示が「2265―14」と書き換えられている。)」をそれぞれ加える。

5  同八枚目表九、一〇行目の「及び野上登美所有の二二六二番三の土地」を「並びに野上登美及び西村しげみ共有の二二六二番三の土地」と改め、同一二行目の後に行を改めて次のとおり加える。

西村ツキ子及び野上登美が、右被控訴人らのために、前記のような承諾書及び覚書を作成したのは、右被控訴人らに売却する予定の各土地が公道(現在二二六三番五の土地とされている土地の南側に、右土地と接する形でほぼ東西に走っている里道)に面していないため、右各土地の取得者のために建物を建築するのに必要な四メートルの道路を将来に渡って確保する必要があったためであり、右承諾書及び覚書において承役地とされた土地のうち、現在西村ツキ子が所有している二二六五番一の土地及び二二六五番九の土地については、その後、いずれも右承諾書及び覚書のとおり被控訴人らの各所有地のための通路に供されており、控訴人にその後所有権が移転された二二六二番三の土地も、右覚書のとおり被控訴人らの各所有地のための通路に供されている。

6  同八枚目表末行の「右」から同九枚目表三行目までを次のとおり改める。

前記承諾書及び覚書において承役地とされた土地のうち、二二六三番一の土地については、昭和五五年五月一三日ころ、二二六三番三ないし五の各土地を分筆するための地積測量がなされ(甲一四)、同月一六日、二二六三番一の土地から二二六三番三ないし五の各土地が分筆された(甲九、一〇)。

そして、二二六三番五の土地については、分筆の二か月後である昭和五五年七月一七日、地目を畑から公衆用道路に変更する手続が取られた(ただし、登記簿上は地目変更原因が生じた日は昭和三五年月日不詳とされている。)。

しかし、公衆用道路として提供された二二六三番五の土地は、南側の公道(里道)に接する部分は約3.1メートルの幅員があったが、北側の本件係争地付近の出口部分では幅員が約2.05メートルしかなかった(甲一四)。

ところで、右分筆当時、二二六三番四の土地及び既に同土地上に建っていた建物は、西村ツキ子が所有しており、同人は、被控訴人らが本件係争地を自動車で通行する際、右建物の利用に支障のない範囲すなわち右建物の北東角部分の屋根や庇に自動車が接触しない範囲においては二二六三番四の係争部分を自動車の右、左折に最小限必要な範囲で通行することを容認していた。したがって、昭和五六、七年ころ、右二二六三番五の土地がアスファルト舗装(簡易舗装)されたときにも、右範囲を含めた二二六三番四の土地の北東角辺りが、いわゆる道路の角切り部分として舗装され、被控訴人らの通行に利用されてきた。

ただし、西村ツキ子及び野上登美は、その後、二二六三番四の土地を控訴人に、二二六三番三の土地を細川清にそれぞれ売却しており、結局、前記合意にある幅員四メートルの道路は確保されないままとなっている。

7  同九枚目表四行目の「その後」を「なお」と改め、同五行目の「分筆されているが」の後に「(甲一五)、右土地は、昭和五九年四月に被控訴人永野が競売により新たに取得したものであって(原審被控訴人永野本人)」を加え、同七行目の「明確にされていた」を「明確であり、西村ツキ子及び野上登美が被控訴人らの各所有地のために通行地役権を認めた土地の範囲には含まれないことが明らかであった」と、同一〇、一一行目の「別紙図面一のイ、ロ、ハ、イの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地」を「第一係争部分」と、同一一行目の「ル、ニ、チ、ヌ、ルの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地」を「二二六三番五の北側係争部分」とそれぞれ改める。

8  同九枚目裏一行目ないし三行目の「同図面のホ、ル、ヌ、チ、鋲①、リ、へ、ホの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地」を「二二六三番四の係争部分」と改め、同三行目の「概ね」を削除し、同三、四行目の「同図面の鋲①、ト、リ、鋲①の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地」を「二二六四番一の係争部分」と改め、同七行目の「赤線道」の後に「(原判決の別紙図面一の道と表示されている部分)」を加え、同八行目の「南側から北側に向かい」を「南北方向に」と改め、同九、一〇行目の「又は賃借人をして」を削除し、同一〇行目の「通行しているが」を「通行し、又は賃借人をして通行させているが」と、同末行の「原告永野」から同一〇枚目表一行目の「頃)し、」までを「被控訴人永野は、昭和五九年四月ころ、二二六三番六の土地を競売により取得し、平成元年四月に同土地上に建物を建て、従前居住していた二二六五番四の土地上の建物から移り住み、右従前の建物は第三者に賃貸しているが、同被控訴人が右土地を」とそれぞれ改める。

9  同一〇枚目表六行目の「自動車で」の後に「南側方向から」を加え、同一〇行目の後に行を改めて次のとおり加える。

ただし、被控訴人永野は、当審検証が行われた平成七年六月二八日ころまでに、被控訴人らが本件係争地を自動車で通行する際の通行が容易となるように、前記ブロック塀を取り壊し、従前のブロック塀の位置から東側に最大幅で数十センチメートル程度寄せた位置である本判決の別紙図面の永野ブロック塀と表示されている位置にブロック塀を設置し直した。

10  同一〇枚目裏九行目の「被告が」から同一一枚目表三行目までを次のとおり改める。

控訴人が、原判決の別紙図面一のチ点付近にブロック塀を設置しようとしたのは、過去に同土地付近を自動車が通行する際、二二六三番四の土地上の控訴人所有の建物の壁に接触したり、右建物の軒下の庇を壊されたりしたことがあったため、こうした被害を受けるのを防止するためであるが、本判決の別紙図面のP(原判決の別紙図面一の鋲①点と同じ)、Q(原判決の別紙図面一のチ点と同じ)、R(二二六三番四の土地上の控訴人所有建物の庇の北東端からの垂線が、原判決の別紙図面一のイ、チの各点を直線で結んだ線と交わる点)、Pの各点を順次直線で結んだ範囲の土地に通行を限定すれば、右土地部分は、控訴人所有建物の庇より外側の部分であるため、自動車が通行しても、控訴人所有建物に右のような被害が生ずることはない。

11  同一一枚目表四行目の「別紙図面」を「原判決の別紙図面一」と、同一一、一二行目の「二二六三番六の土地に入って左折していたかどうかについての点は」を「整地前には本件係争地を南側から自動車が左折する際であっても二二六三番六の土地に進入することはなかったとの供述部分は」と、同裏二行目の「照らすと」から同三行目の「できないし」までを「照らしても直ちに信用することができず、したがって」とそれぞれ改める。

二  争点1について

1  前記一の認定事実によれば、原判決の別紙物件目録二記載の各土地(ただし、西村巖の所有であった同目録二の5の(二)記載の二二六二番四の土地を除く。)の所有者(あるいは共有者)であった西村ツキ子及び野上登美は、被控訴人らとの間において、右各土地を自らあるいは山口トヨタ興産株式会社又は有限会社大地への売却を通じて被控訴人らに売却した際、右各土地には公道(里道)に至る道路がなかったことから、幅員四メートルの道路を確保するため、右各土地を要役地とし、西村ツキ子所有の二二六三番一の土地、二二六五番一の土地、二二六五番九の土地、野上登美外一名共有の二二六二番三の土地を承役地とする通行地役権を設定する旨の合意をし、右合意を明確にするために承諾書(甲一)及び覚書(甲四添付)を作成したことが認められる。

2  ところで、前記一の認定事実によれば、右承諾書及び覚書において承役地とされた二二六三番一の土地のうち、二二六三番五の土地として分筆された西村ツキ子の所有地については、同土地を道路とするために、地目が畑から公衆用道路に変更され、その旨の地目変更登記も経由されており、同土地全体について通行地役権が設定されたものと認められるから、被控訴人らは、二二六三番五の土地の一部である第一係争部分(原判決の別紙図面一のイ、ロ、ハ、イの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地部分)及び第二係争部分のうちの二二六三番五の北側係争部分(同図面一のニ、チ、ヌ、ル、ニの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地部分)について通行地役権を有するものと認められるところ、右各土地部分は、現在も西村ツキ子の所有地であって、控訴人は右各土地部分については何らの権利を有しないから、被控訴人らは、右各土地部分については、通行地役権の設定登記を経由するまでもなく、控訴人に対し、被控訴人らの通行を妨害したり、通行の妨害となる工作物の設置をしないよう請求することができるというべきである。

なお、被控訴人山田が昭和五四年一一月に西村ツキ子の甥である西村巖から買い受けた二二六二番四の土地については、前記承諾書及び覚書に要役地として記載されていないが、同土地は、同被控訴人が同年九月に野上登美外一名から買い受けた(ただし、登記簿上は、山田節子が買い受け、同人から真正な登記名義の回復を原因として同被控訴人に所有権が移転されている。)二二六五番一二の土地及び二二六二番五の土地と一体となって同被控訴人所有の建物の敷地として利用されている土地であるから、二二六五番一二の土地及び二二六二番五の土地のための通行地役権が認められている以上、二二六二番四の土地との関係を問うまでもなく、同被控訴人は、右通行地役権に基づき、右請求をすることができるというべきである。

そして、このことは、次の3において判断する二二六三番四の係争部分についての通行地役権についても同様に考えられる。

3  そこで、次に、二二六三番四の係争部分について通行地役権の設定があったものといえるかどうかについて検討する。

前記一の認定事実によれば、前記承諾書及び覚書において承役地とされた二二六三番一の土地のうち、二二六三番五の土地として分筆された土地は、公衆用道路として提供されているが、同土地は、北側の本件係争地付近の出口部分では幅員が約2.05メートルしかなく、南側の公道(里道)に接する部分においても幅員が約3.1メートルであったが、その後、二二六三番四の土地が控訴人に、二二六三番三の土地が細川清にそれぞれ売却され、結局、二二六三番一の土地から幅員四メートルの道路は確保されないままとなっていること、また、控訴人に売却された二二六三番四の土地についても、右分筆当時、西村ツキ子所有の建物があって同建物の敷地部分になっていたことに照らすと、二二六三番四の係争部分について明示に通行地役権の設定がなされたとは認めがたい。

しかしながら、前記一の認定事実によれば、二二六三番一の土地から二二六三番四の土地が分筆された当時、二二六三番四の土地及び同土地上の建物を所有していた西村ツキ子は、被控訴人らが本件係争地を自動車で通行する際、右建物の利用に支障のない範囲すなわち右建物の屋根や庇に自動車が接触しない範囲においては二二六三番四の係争部分を自動車の右、左折に最小限必要な範囲で通行することを認めているが、このことは本件係争地付近の道路状況からして合理的であると認められること、したがって、その後、昭和五六、七年ころに本件係争地のアスファルト舗装(簡易舗装)がなされた際も、右範囲を含めた土地部分が舗装されたものと認められることに照らすと、西村ツキ子は、遅くとも、右アスファルト舗装(簡易舗装)がなされた昭和五七年ころまでには、二二六三番四の土地に関しても、右建物の北東角部分の庇より外側の三角形の土地部分である本判決の別紙図面のP、Q、R、Pの各点を順次直線で結んだ範囲の土地部分について黙示に通行地役権の設定を認めたものと推認するのが相当である。したがって、昭和五七年ころ、西村ツキ子と被控訴人らとの間に、本判決の別紙図面のP、Q、R、Pの各点を順次直線で結んだ範囲の土地部分について、黙示の通行地役権設定契約が成立したものというべきである。

ところで、前記一の認定事実によれば、二二六三番四の土地は、その後、その所有権が昭和五九年に競売による売却を原因として西村ツキ子から野上登美に移転し、さらに、平成二年四月ころ(ただし、登記簿上は同年九月一一日)、野上登美から売買を原因として控訴人に移転し、右土地上の建物もそのころ野上登美から控訴人に売却されていることが認められるところ、本件全証拠によるも、控訴人が野上登美から右二二六三番四の土地の売却を受ける際、同土地に被控訴人らの各所有地のための通行地役権が設定されている旨の説明を受けたことを認めるに足りる証拠はないから、控訴人が二二六三番四の土地全体について、通行地役権設定者たる地位を承継したとは認めがたい。

しかしながら、前記一の認定事実によれば、控訴人は、野上登美から二二六三番四の土地を買い受けた当時、同土地上の建物の北東角部分の庇より外側の三角形の土地部分である本判決の別紙図面のP、Q、R、Pの各点を順次直線で結んだ範囲の土地部分は、既にアスファルト舗装(簡易舗装)もなされていて、被控訴人らが自動車で本件係争地を通行する際に右、左折のために最小限必要な部分として利用していることを分かっており、かつ、被控訴人らが右土地部分を通行のために利用することができなくなれば、自動車による通行が困難となって日常生活に重大な支障が生ずることを十分認識しながら、右土地を買い受けたことが推認されるから、控訴人は、少なくとも、右土地部分に関しては被控訴人らが前記の黙示の通行地役権設定契約に基づいて取得した通行地役権の設定登記を 経由していないことを主張する正当な利益を有しないものと解される。

したがって、被控訴人らは、控訴人に対し、右土地部分については、通行地役権の設定登記を経由していなくとも、被控訴人らの通行を妨害したり、通行の妨害となる工作物の設置をしないよう請求することができるというべきである。

4  さらに、二二六四番一の係争部分について、被控訴人らが通行地役権を有するかどうかについて検討するに、前記一の認定事実によれば、西村ツキ子及び野上登美が前記承諾書及び覚書において被控訴人らの各所有地のための承役地として認めた土地の表示には二二六四番一の土地が含まれていないことが認められるところ、それが単なる地番の記載漏れであったと認め得る証拠はないから、右土地部分は、もともと通行地役権設定の合意の対象とはなっていなかったものと推認するのが相当である。

また、本件全証拠によるも、右土地部分が実際に通路として利用されていたことを認めるに足りる証拠はないから、右土地部分について黙示の通行地役権が設定されたものと認めることもできない。

三  争点2について

前記一の認定事実によれば、被控訴人永野は、二二六五番四の土地から二二六三番六の土地に移り住み、二二六五番四の土地上の建物を第三者に賃貸していること、同被控訴人は平成三年一月ころに二二六三番六の土地内の原判決の別紙図面一のブロックと表示のある部分にブロック塀を設置したこと、同被控訴人が右ブロッック塀を設置するまでは、被控訴人らが本件係争地を自動車で通行する際、二二六三番六の土地の一部に進入して通行することもあったことが認められる。

しかしながら、前記一の認定事実及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人永野の二二六五番四の土地上の建物の賃借人において自動車の利用のため本件係争地を通行する必要があることが認められるから、同被控訴人が本件係争地について通行地役権を主張する利益がないということはできない。

また、前記一の9に認定のように、被控訴人永野は、当審検証が行われた平成七年六月二八日ころまでに、原判決の別紙図面一のブロックと表示のある部分に設置していたブロック塀を取り壊し、従前のブロック塀の位置から東側に最大幅で数十センチメートル程度寄せた位置である本判決の別紙図面の永野ブロック塀と表示されている位置にブロック塀を設置し直すなどして、被控訴人らが本件係争地を自動車で通行する際の便宜を図っていることを勘案すると、被控訴人永野の本件請求が権利の濫用にあたると解することもできない。

第四  結論

以上によれば、被控訴人らの請求は本判決主文一項1、2記載の限度でこれを認容すべきであって、原判決中、原判決の別紙図面一の鋲①、チ、ヌ、鋲①の各点を順次直線で囲んだ範囲内の土地部分から本判決の別紙図面のP、Q、R、Pの各点を順次直線で囲んだ範囲内の土地部分を除いた土地部分についての通行妨害禁止及び工作物設置禁止請求を認容した部分は失当であり、本件控訴は一部理由があるから、原判決を右のとおり一部変更することとする。

(裁判長裁判官 寺本榮一 裁判官 亀田廣美 裁判官 渡邉了造は、転補のため、署名押印することができない。裁判長裁判官 寺本榮一)

凡例

写真撮影の位置・方向

ブロック塀

土に埋められたブロック

―・―

境界線

永野旧ブロック塀

距離関係(単位:メートル)

基点Ⅰ~基点Ⅱ

4.24

基点Ⅰ~基点Ⅲ

1.01

基点Ⅰ~P

3.42

基点Ⅱ~P

3.57

基点Ⅱ~Q

3.63

基点Ⅲ~P

3.49

基点Ⅲ~Q

2.54

基点Ⅲ~T

0.50

P~O

1.15

P~Q

0.95

P~R

1.45

Q~R

1.38

T~C

1.77

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